「WJJ Visionary Jewelry Design Challenge 2024」審査結果発表

WJJ主催の学生を対象にしたジュエリー公募展「「WJJ Visionary Jewelry Design Challenge 」第1回目の受賞者の授賞式が11月9日(土)、原宿のmysha Galleryで行われました。<ヴィジョナリー・ジュエリー・デザイン・チャレンジ賞>、<カラー&コントラスト賞>、<ウェアラブルアート賞>の3つ賞を設けていましたが、厳粛な審査の結果、今回は<ウェアラブルアート賞>のみが確定しました。また設定された賞ではありませんでしたが、今後の活動に期待して、新たに<努力賞>を設けました。
公募展の概要、審査員については、WJJ Visionary Jewelry Design Challengeをご覧ください。

【ウェアラブルアート賞】濱野みずほさん(アテナ宝石デザイン研究所)

【努力賞】山根朋子さん(アテナ宝石デザイン研究所)

 【努力賞 】 山田空輝さん(名古屋芸術大学)

【総評】

審査員:秋山真樹子氏
ジュエリーという、自分以外の人が身につけるかもしれないもので自分を表現するということの難しさを改めて感じました。応募作品全体を見て感じたのは、クリシェの多用によって無難にまとまりすぎ、ということです。大多数の作品への評はこれに尽きます。

表現するって怖いことです。他の人とは分かち合えないかもしれない、自分が抱える違和感や問題意識を、形にして皆に見えるようにすることです。大勢はおろか、たったひとりの人にすら理解してもらえないかもしれません。でも、そのきわめて個人的な実感を突きつめると、運が良ければ誰かの心に深く届くことがあります。心細い作業ですが、取り組む価値のあることです。ジュエリーの場合、個としての表現の先に、つける人という他者が待っています。つまり、自己の表現と他者への目配せの両方が必要です。そのふたつをどの程度で配合すれば良いジュエリーができるのか、その最適解があればよいのですが、それはどこにもありません。そこのところでどう葛藤し、どうバランスを模索するかが、その作り手らしさが現れるひとつのポイントだからです。少なくとも私はそう考えています。

再生をテーマとするこの第1回目の公募に、私がひそかに期待していたのは、そのジュエリーをつけたらどんなふうに生まれ変わることができるのか、ということでした。そのジュエリーをつけたあなた自身が、どうなりたいかというのでもいいです。もっと広く言えば、若い感覚を持つ学生さんたちが、ジュエリーにどのような夢を持っているのかを見たかった。公募の名前にも入っているとおり、まさに vision です。しかし、いざ応募作品を拝見したら、心を痛めていたり、ハンディキャップを抱えた人たちに寄りそう趣旨の作品が多く、いまという時代を感じるとともに、身勝手な期待を託した自分を反省しました。クリシェが散見されたのは、大勢の人に寄り添おうとしたがゆえのことなのかもしれません(それでもクリシェで人の心を動かすことができないことは、いくら強調してもしすぎることはありません)。

結果として、それを描いたのがどんな人で、その人自身がジュエリーをどういうものとして捉えているのかが伝わってくる作品が少なかったです。そういった意味では、受賞に至りませんでしたが、Wang Yuqing さんの作品の制作意図には確かな考えを見ることができました。「自分は自分のままで心の形を変換する」なんて、自分が考えたってことにしたいくらい素晴らしいです。いつの日かこんどは作品で、私の心を動かしてくださることを楽しみにしています。やはり受賞には至りませんでしたが、櫛橋菜緒さんの応募作品からは、ジュエリーを自分らしくあるための強さをくれるものなのだと考えていることが伝わってきました。ただそのビジョンの中に、肝心のあなたがいなかった。あなたに力をくれるものは何ですか? 自分らしくある時のあなたはどんな姿をしていますか? それを見せてください。

ここで全員の作品に触れることはできませんが、応募してくださったすべての皆さまに、心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。繰り返しになりますが、ジュエリーを通じて自己を表現することは決して簡単なことではありません。応募してくださった方はきっと、それぞれの形でそれを学んだことと思います。その難しさと向き合うことを諦めないでください。そして、ジュエリーに夢を見ることをどうか忘れないでください。

(個別評価)
濱野みずほさんの作品 ー ひとつの風景を感じさせる作品なので、装着後のイメージを総合演出するくらいまでやり込むと、コンセプトがぐっと生きてくるように思いました。モチーフ、素材、その組み合わせが無難にまとまっていたので、そのどれか1つだけでも独自性を感じさせる何かが欲しかったです。

山根朋子さんの作品 ー 耳飾り部分は独創性に欠けますが、端末部分との造形をどう呼応させるかに、ここから発展させていく可能性を感じました。こうしたウェアラブル端末の場合、その端末を使わない時でもつけたいと思えるくらい、ジュエリーとして魅力的か、がひとつの指標になると思います。

山田空輝さんの作品 ー 真剣に取り組んでくださったことが感じられる力作ですが、テーマが大きすぎたかもしれません。例えそれが他の人にとって何も意味がないものであったとしても、不安な日々の中で、あなた自身が安らぎを見いだせたことやものを出発点にすると、もっと説得力が出たと思います。

審査員:関昭郎氏
長年、ジュエリーに関わられている渡辺さんが、学生を対象にしたコンペティションを立ち上げるということで、楽しみに参加させていただいた。学生ならではの、みずみずしい表現や、私たちの感覚とは異なった「言葉」がみられることを楽しみにしていたが、いくつか、可能性のある断片を見ることができた。

ジュエリーには、フォーマルな場に身につけるハイ・ジュエリーやくだけた場でつけるものなど、それぞれに異なっている。それはジュエリーには「会話を生み出す/会話の代わりになる」という機能があるからで、自分を含めた誰に向けたメッセージが造形のなかにあるのかということがとても重要だ。

Rebirth(再生)というテーマは、世の中の大きな動きだけでなく、失恋とか、ちょっとしたつまずきなど、個人的なものでなくともよかったと思う。また、’Re’が付いていることでテーマ自体がポジティヴさを期待したものに見えるので仕方がないが、恢復していなくとも、苦しみや悩みを表現したものがあっても良かった。というのも、そうした表現のなかには、自然とそれを乗り越えようとする力が感じられるものだからである。

第1回ということで、応募者も手探りであったと思うが、このコンペティションはより自由な表現、他人事ではない、自分ごとの「言葉」が集まる場となることを楽しみにしている。

(個別評価)
濱野みずほさんの作品は、着用したときにインパクトのあるデザインが良い。月の表面が日によって異なって見えるように、みみたぶを加えることで作品の表情を生み出そうとしているのであれば、けっこう新しい視点と言えるかもしれない。和紙の使用そのものには新しさを感じなかったこともあるのだが、「月をめでてきた『和』の心」という視点が、テーマを普遍化しすぎていて作者の気持ちが見えなかった。

応募作品のなかで山根朋子さんと山田空輝さんの2作品のみが、テーマを自分ごととして昇華し、デザインと結びつけられていた。Rebirth(再生)というテーマに対して、「補聴器」を提案してきたのは、新鮮なアプローチに感じた。残念ながら、デザインが装飾を付け足すというものであり、障壁をなんらかの「美」に転換するまでは至っていないように感じたが、今後に期待したい。山田空輝さんの作品は、ステートメントから震災時の作者自身の不安が伝わってきて共感した。東京にいても余震が続いた期間は不安だったことを思い出した。ブランケットの温かみに関心を寄せるのも説得力があったのだが、残念ながらデザインにブランケットが活かされていなかった。ブランケットにくるまる人々の姿をなるべくたくさんスタディーし、それを連作としていけば力強い作品になるだろう。

審査員:高橋まき子氏
学生対象のコンクールにもかかわらず、既成の概念を大きく超えるような斬新なデザインの応募が見られなかった事は残念です。しかし、それぞれの応募作品からはしっかりとしたコンセプトに基づいてデザインされていることが伝わって来たのは救いではあるが、具現化には至っていません。将来そのコンセプトが感動をよぶ素晴らしい造形として、昇華される未来に期待したい。

(個別評価)                                           
濱野みずほさん ー 作品を見た時に、無駄を削ぎ落したシンプルな造形に潔さを感じた。和の心の表現で和紙を使っていると思うが、実際には強度や耐久性を考慮し、様々な和の素材を考えねばならない時もあると思う、しかし、そのシンプルな潔さだけは貫いてほしい。

山根朋子さんの作品 ー 補聴器は今まで、なるべく隠したい、目立たないよう、小さく小さく、という流れが主流だった中で、あえて見せよう、楽しく、美しく表現していこうという発想の転換がある。負のイメージをプラスに変える補聴器付きジュエリーの多様なデザインの展開に期待する。

山田空輝さんの作品 ー 震災からも立ち上がる力強いタンポポを人間に見立てた表現は素直な造形で、独特の持ち味はある。しかし踏まれても立ち上がるタンポポのイメージは既成の概念に囚われている様で、新鮮な感動は与えにくいと思う。

主催者・審査員:渡辺郁子
WJJが主催する第1回目のジュエリー公募展に応募してくださった方々にまずお礼を申し上げます。WJJ ヴィジョナリー・ジュエリー・デザイン・チャレンジは、タイトルの通り、「チャレンジ」してもらうことを念頭に企画しました。平たく言えばコンテストやコンペティションなのですが、あえてチャレンジという言葉を選んだのは、他者との競争よりも応募者が自分自身と向き合い、未発掘の可能性を引き出すことに挑戦してほしいと考えました。才能に順位をつけることに疑問を持ち、順位のない賞を設置しました。

 ジュエリーは18世紀から19世紀初頭にかけて、それ以前の古典的なジュエリーとは一線を画するアール・ヌーヴォー、アール・デコといった大きな変革があり、アール・ヌーヴォーを代表するラリックや、またシュレアリスムの画家ダリが描いたジュエリーのように想像を絶する作品が登場しました。彼らの作品はあまりにも奇抜であったため、当時の女性たちに受け入れられませんでしたが、芸術分野に一石を投じたことは確かです。ジュエリーはこの時代から芸術と実用品との境界線を跨ぐことができるようになりました。

言葉による説明は必要ですが、それを読む前に、作品の前で立ち止まらせる何かを期待しましたが、残念ながら<ヴィジョナリー・ジュエリー・デザイン・チャレンジ賞>に該当する作品は見つかりませんでした。ジュエリーでは世界で一般にまで名前を轟かせた日本人の名は思い浮かびませんが、ファッションでは、例えば、1981年にパリコレに初参加した川久保玲氏はそれまで、ヨーロッパのモードにしか興味を示さなかった西洋のジャーナリストたちの視線を、東京に向けさせたという素晴らしい例があります。ジュエリーでも日本が誇れる作り手が誕生することを期待します。

<個別評価>
満場一致で「ウェアラブルアート賞」に確定した濱野みずほさんの作品は、その大きさがまず目に飛び込んできました。和紙であるため、普通に考えれば着用には向いていませんが、着用するかどうかは人それぞれなので、あえてこの大きさにしたことに「チャレンジ」を見出しました。

「努力賞」は、今後さらにデザイン力を研鑽して欲しいという願いを込めて急遽設定しました。山根朋子さんの補聴器は、すぐにでも製品化できそうな作品です。できれば装着したくない補聴器に装飾を加えることでつけたい気持ちにさせる、ジュエリーの存在意義を見出しました。一方、デザインが無難にまとまっているところが惜しいと思いました。山田空輝さんの天災からイメージし、ブランケットに包まれたたんぽぽのジュエリーデザインは、丁寧なデザイン画が印象に残りました。着眼点が良いので、見聞を広めて次の作品にチャレンジすることを希望します。






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