WJJが主催する学生を対象にしたジュエリー公募展「WJJ Visionary Jewelry Design Challenge 2025」の入賞者が決定しました。このプロジェクトは2024年を初回に、今年2回目を迎えました。今回、WJJから提示したテーマ「セルフポートレート」を、ジュエリーで巧みに表現した名古屋芸術大学の山田空輝さんが<ヴィジョナリー・ジュエリー・デザイン・チャレンジ賞>を授賞しました。<ウェアラブルアート賞>と<ヴィジョナリー・ジュエリー・デザイン・チャレンジ/実作品賞>は残念ながら確定しませんでしたが、今後の活動に期待して、<努力賞>を名古屋芸術大学の松本沙莉さんに贈呈します。
公募展の概要については、WJJ Visionary Jewelry Design Challengeをご覧ください。
【ヴィジョナリー・ジュエリー・デザイン・チャレンジ賞】山田空輝さん

【努力賞 】 松本沙莉さん

【総評】
審査員:関昭郎氏
私が大学で繰り返し、話しをしてきたことの一つが、パーソナルな言語は、インターナショナルな言語となるということでした。1990年代からの現代美術の分野で、アジアの作家たちの活躍が目立ちましたが、彼らの伝えようとしていたものは、他では知られていないような身近な問題や見過ごしてしまうような日常のなかにある価値でした。その表現は作家たちの生まれた地域や民族というアイデンティティと結びつくことで、強い説得力を持っていたのです。
ジュエリーも、まさにそこに出発点を求めることで、共感が生まれるのではないでしょうか。歴史上の大芸術家や誰もが知る人気作家であることにはたいへんな意味がありますが、自分には気が付いていなかった一つの価値に気づかせてくれる表現には、自然とリスペクトの気持ちが湧いてくるものです。素直に自身のなかにあるものを見せてほしい。私が今回の「セルフポートレイト」というテーマで期待していたのは、等身大の自分自身を表現したデザインに出会うことでした。
(個別評価)山田空輝さん
WJJ Visionary Jewelry Design Challenge賞を受賞した山田空輝さんのデザインは、オニキスと白蝶貝との対比もイメージしやすく、「⾃分よりも周りの⾊を優先してしまう」自身を表現したというコンセプトの明快さに魅力がありました。こだわりが円形のリバーシを四角にしたところ、デザインをシンプルにしたところに止まっていて、やり切った感までは伝わってこなかったのですが、さらにブラッシュアップすることで、より楽しい作品になると思います。
(個別評価)松本沙莉さん
努力賞の松本沙莉さんは「自分に自信を持てず行動力がない」と言いながらも、実作品を制作する行動力を見せてくれました。デザインは意欲的に異素材を取り入れながら、複数の要素を美しくまとめていました。
デザインのアピールポイントが、ブーケを取り外せるところをとしていましたが、アクアマリンをセンターストーンとした素材の選択を含めて、少し意図が伝わってこないところがありました。実作品も、特に曲線は魅力的なものだったので、良いところを伝えるために要素を切り詰めていくことにも挑戦してほしいと思いました。
審査員:関美怜氏
第2回WJJ Visionary Jewelry Design Challengeのテーマは「セルフポートレート」ということで、皆さんが自分自身とどう向き合い、どのように個性を表現されるのか、とても楽しみにしていました。
実際の応募作品を拝見して感じたのは、ジュエリーデザインの基礎をしっかりと学ばれた方が多く、どの作品も丁寧で緻密なデザイン画であったということです。一方で、コンセプトの掘り下げがやや浅いという点が気になりましたし、「自分らしさ」ともう少しじっくり向き合ってもよかったのではないかと思いました。
デザインは技術だけではなく、自身の内面に持つ思いやテーマを形にすることで、個性や作品の強さが自然と現れるものだと思います。今後人の記憶に残るような作品を生み出すためには、自分で定めたテーマにしっかりと向き合い考え抜く、という姿勢が重要なのではないでしょうか。今後皆さんの中で沸沸と煮詰められたデザインにどこかで再会できる日を楽しみにしています。
(個別評価)山田空輝さん
山田空輝さんは、前回の努力賞に続いて今回のVisionary Jewelry Design Challenge賞受賞、おめでとうございます。就職活動で得た自分の内面への気づきを、作品にしっかりと昇華していた点がとても印象的でした。モチーフに「リバーシ」を選び、長所と短所が表裏一体であることをギミックを交えてデザインしたのは、コンセプトとしても非常にわかりやすく表現されていました。
ただ、リバーシというモチーフに少し縛られすぎていた印象も同時に受けました。デザインの中にもう少し柔軟に遊びや自由さがあってもいいのではないかと思います。
また、この作品のようにミニマルなデザインはほんの少しの厚みや太さなどの差で印象が大きく変わります。形のシャープさや仕上げにもう一段こだわったら、ぐっと完成度が上がるだろうと思いました。
(個別評価)松本沙莉さん
松本沙莉さんは、デザイン画から実作品、コンセプトに至るまで、一貫して繊細で誠実な人柄が伝わってくるような作品でした。応募者の中でも特に、自分としっかりと向き合って生み出されたと感じた作品で、その真摯な姿勢にとても好感を持ちました。
デザインとしてはクラシカルな王道のデザインで、あまり個性が感じられなかったのが残念です。金属に合わせた異素材の立体刺繍は興味深かったですが、その部分も大変控えめなデザインで、もう少しそれぞれの素材がお互いを引き立てあうような構成だとより印象的になったのではないかと思います。コンセプトからは立体刺繍がどんどん華やかに進化していく予感があったので、今後の展開に期待しています。
審査員:高橋まき子氏
今回のテーマ「セルフポートレート」は自己を深く見つめ直し、それをジュエリーという形で表現するという点において、非常に高度で内省的な課題であったと感じます。その為応募者数はやや控えめだったかもしれません。しかしながらこの難解なテーマに、真正面から向き合い自身の内面を丁寧に掘り下げ、誠実な造形としてジュエリーに昇華させた作品に出合えた事は、審査員として大きな喜びでした。
応募者の皆さんは現在学生ですが、将来プロのデザイナーとして活動する際に直面するであろう「予算」「制作工程」「市場性」など複合的な要素を踏まえたコンセプトに合わせジュエリーをデザインをする時、今回の経験は確実に糧となる事でしょう。
一方で主催者側としても、学生が挑戦したくなるようなテーマ設定や参加意欲を喚起する工夫が求められていると、改めて感じました。次回のデザインチャレンジではより革新的で魅力的な挑戦に繋がる事を期待しています。
(個別評価)山田空輝さん
「セルフポートレート」というテーマに対する理解と掘り下げは明確であり、ジュエリーとしての造形も、簡潔で心地よい印象を受けます。そのミニマルな表現はコンセプトの本質を的確にとらえており、高い完成度を感じさせます。一方で「リバーシブル構造」や「表裏の色違い」といった要素は既存のデザイン文脈において既視感のある手法でありある程度予測可能な範囲に留まっている印象も否めません。もし反転によって全く異なる造形的表情が現れる意外性を伴う仕掛けが加えられていれば、独創性と革新性がもたらされ、より高次の表現へと昇華したのではないかと感じます。
(個別評価)松本沙莉さん
テーマに沿って自分の内面を深く掘り下げ、誠実にジュエリーとして昇華された造形には制作者の思いが静かに、しかし確かに伝わってくる。柔らかな曲線や花をモチーフとした意匠は決して革新的な新しさを追求したものではないが、丁寧なデザインからは、真伨な姿勢と美意識が感じられ、好感を抱かせる作品となっている。ひとつ提案をさせて頂くならば取り外し可能な花のパーツの素材にもう一工夫欲しかった事と、もう一つ異なる色味の花のバリエーションが加われば装いに合わせた表情の変化を楽しめる可能性が広がり、コンセプトに立脚した貴方の想いが、鮮やかに伝わるデザインとなった事でしょう。
主催者・審査員:渡辺郁子
まず第2回目となる「WJJ Visionary Jewelry Design Challenge」に応募していただいた皆様には感謝を申し上げます。「セルフポートレート」というテーマはアートの題材に多く使用されますが、ジュエリーに当てはめた場合、どのような作品になるのか期待しておりました。私自身は、ジュエリーは自己表現であり、コミュニケーションの手段の一つであると考え、専門とするジュエリーの出版では多様なジュエリーを通じてそれを暗にほのめかす企画を繰り返しきました。
応募作品を拝見し、コンセプトを読みつつ、審査結果は二分されました。「セルフポートレート」を他者が理解するように表現できた人、テーマが二の次になってしまった人。それが結果に繋がったと思います。但し、どの応募作品も真摯にジュエリーの創作に取り組んでいることがわかり、デザインだけで捉えれば、落とし難い作品もありました。また審査員にとっては、若い世代の考え方、生き方を垣間見ることができる貴重な機会となったと思います。
(個別評価)山田空輝さん
様々な環境に順応することができる…..しかし裏を返せば、自分よりも周りの色を優先してしまうというのが短所でもあるという山田空輝さんの自己分析と、芯のある人間になり人を理解したいという意識が、光によって見え方が変わる白蝶貝と何色にも染まらないオニキスという素材の選び方、またパーツが回転し表裏が見えるところがテーマ「セルフポートレート」を巧みに表現していました。難を言えば実作品にした場合、厚みが気になり、つけづらいように思います。プロのデザイナーを目指すのであれば、ワックスなどで原型を作り、デザインに落とし込むといった方法も考えてみてはどうでしょうか。
(個別評価)松本沙莉さん
松本沙莉さんは、繊細で自信が持てずにいたが、大学生活で尊敬する先生や先輩や、共に成長できる友人たちと知り合い、自分が変わった。しかし今回のテーマを掘り下げて考えるうちに、「私の基盤」は変わっていない、しかしそんな自分を評価してくれている周囲がいることに気づき、改めて自分を愛せるようなったとコンセプトで綴っています。私の基盤をバレッタで表し、取り外しができる花のパーツによって変わるかもしれない自身の未来を暗示しています。メッセージを伝える努力がわかる作品ですが、ジュエリーデザインの新しさが欠けていました。しかしながら作品に向き合う真摯な姿勢に、今後の活動を期待したいと思いました。




コメント