Text=Machida Akemi
近年、人材育成のために企業と学生が連携して課題に取り組む産学協同活動が注目されていますが、ジュエリー業界ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。ジュエリー製造国内トップのシェアを持つ株式会社桑山が、専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジと2016年より継続している産学協同プログラムについて、桑山 商品企画部の小田光貴さんに取材しました。
Q ヒコ・みづのジュエリーカレッジとの産学協同プログラムの概要を教えてください。
A 毎年、桑山がテーマを設定し、学生がそれに沿ったジュエリーをデザイン・制作します。その過程で桑山のデザイナーが学生にアドバイスし、最終的に完成した作品を評価、選定します。選定された優秀な作品20点を1月のIJT(国際宝飾展)の弊社のブースで展示し、来場者に投票とコメントをいただき、上位者を表彰しフィードバックを行うというものです。
この活動はヒコ・みづのジュエリーカレッジのカリキュラムに含まれており、学生はジュエリーメーカー目線のものづくりの考え方を学ぶことができ、弊社としては、次世代ジュエラーの育成という社会的な責任を担いリクルートにつながる重要な活動です。また、学生の新鮮なアイデアや着想に刺激ももらっています。
Q 具体的なスケジュールや手順を教えてください。
A 5月にテーマを学生に提示し、8月に中間チェックとして、学生からコンセプトやデザインのプレゼンテーションをしてもらいます。それに対し、桑山のデザイナーが具体的なアドバイスを行います。一対一ではなく、1人のプレゼンに対してクラスメート全員が講評を聞き、共有できるようにしています。提案の中には、驚かされる新鮮なコンセプトやデザインもあります。コロナ禍はオンラインで行っていましたが、今年は渋谷の校舎で、学生と直接コミュニケーションを取り、課題について話し合いました。年度により変動はしますが学生は30人〜70人です。2024年度は「アドバンスドジュエリーコース」という4年制のコースの3年生のカリキュラムに組み込まれています。
作品が出来上がる12月に学校で、最終評価、選考します。机の上に、実作品、デザイン画、コンセプトシートを並べ、桑山のデザイナー全員で話し合い、上位20作品を選考します。
上位20作品をIJT に展示
Q 選考のポイントは?
A テーマに沿って制作されているか、テーマが伝わる作品であるかです。テーマは毎年変わり、2024年度は魅力の「魅」でした。企業デザイナーとして大事なのは、伝えること。どうしてこの作品が魅力的で、他の作品とは違うのかを伝えることが重要です。
Q IJTの展示の反響はどうですか?
A 弊社の取引先の皆様をはじめジュエリーに携わる300~400人に投票していただいています。人気投票でプロが選ぶ基準は、一瞬で心を掴まれるもの、努力して制作したと感じられるものが多いようです。学生さんにとっては、全力で作った作品を業界のプロに投票してもらえるチャンスなので、とてもやりがいがあるのではないでしょうか。来場者の中には、毎年この展示を楽しみにしている方もいらっしゃいます。またこの活動が業界の繁栄につながる良い取り組みだと賛同もいただいております。
2月頃、投票の結果を発表します。上位1位、2位、3位には、副賞としてダイヤモンドのルースを贈呈。技術賞、デザイン賞、コンセプト賞なども設けて表彰しています。IJTに展示された20作品だけでなく、選ばれなかった作品についてもフィードバックを行います。
産学協同プロジェクトの未来
Q 産学協同活動に携わって9年間、変化や今後の展望についてお聞かせください。
A 年々、作品のレベルが上がってきています。過去作品の蓄積ができ、学生にとっては実際の作品を確認することでより深い理解ができ、弊社としても継続活動してきたことで学生へ伝える力がついたのでないかと思っています。
次世代のジュエリーデザイナー、職人を育成していくためにも、今後はファッション系の専門学校や美大などとの産学の取り組みもできればと考えています。産学協同プログラムによって、ジュエリーに興味を持つ若い人が増えて、ジュエリー業界全体が盛り上がることに期待しています。
<2023年度1位>上林世奈さんの作品。
<2023年度2位>平原育実さんの作品。
<2023年度3位>濱田珠琉さんの作品。
トップ画像:IJT2024桑山の展示風景。
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